2009年4月28日火曜日

Loss-of-function mutations in the Nav1.7 gene underlie congenital indifference to pain in multiple human populations

Clin Genet 2007: 71: 311–319
来月に学会発表の予定があり、その準備と知識の整理をかねて「知覚神経特異的Naチャンネルの機能解析と創薬」といった観点で論文を紹介したいと思います。
Naチャンネルにはαとβの二つのサブユニットがありますが、αサブユニットにNa通過部位や電位感知部位が集まっています。もちろん、局所麻酔薬もαサブユニットの一部にくっつく形で作用が発現します。
このαサブユニットですが、現在では9種類が発見されていて、Nav1.1-Nav1.9と整理されています。
この中でNav1.8とNav1.9は「知覚神経特異的」すわなち、一次知覚神経にだけ存在するNaチャンネルであるとされていて、僕はこれらの解析を行っていたわけです。
ところで、一次知覚神経にはNav1.7というチャンネルも存在していて、活動電位の発生に対してはNav1.8や1.9よりもNav1.7の方が貢献度が高いと考えられています。しかしながら、Nav1.7のノックアウトマウスはlethalであり、少なくともマウスやラットでは中枢神経や平滑筋にも発現が認められているので、「Nav1.7は知覚神経の機能発現に重要だけど知覚神経特異的ではない」というのが僕の中での整理でした。
それでこの論文です。ヒトにはCongenital indifference to pain (CIP)と呼ばれる遺伝性疾患があるのですが、CIPを発症する血族の遺伝子解析をしたところ、地域の異なる9血族でNav1.7をコードする遺伝子が異常が見つかったという報告です。遺伝子異常の詳細はさまざまですが、いずれもNav1.7がその一部しか合成されなくなることが予想されています。
要するに「ヒト版Nav1.7ノックアウト」なのですが、ここで明らかになったことは「ヒトでNav1.7をノックアウトすると痛覚が消失するが、それ以外に明らかな異常はなさそう」ということで、これはNav1.7ノックアウトマウスがlethalであることを考えるととても不思議です。
そのことに一定の回答を出した論文が
"A stop codon mutation in SCN9A causes lack of pain sensation"
彼らはヒトとマウスの中枢神経におけるNav1.7の発現をin situ hybridizationによって可視化したのですが、マウスでは視床下部や下垂体などにもNav1.7が発現しているけどヒトでは認められない(発現が少ない)ということがわかりました。in situ hybridizationだけで定量的な議論をするのはどうかな?と思いますが、まぁ納得できる結果ではあります。
そんなわけで、Nav1.7もヒトに限っては知覚神経特異的と言ってもよいのかもしれません。
関連する文献として
An SCN9A channelopathy causes congenital inability to experience pain
パキスタンのCIP3家族でNav1.7に異常。こちらはアミノ酸が一つ入れ替わるだけでfull lengthのNav1.7が発現していると考えられる。ただし、アミノ酸の入れ替わりによってその機能はかなり障害されるようです。
他の遺伝性痛覚異常疾患との関連も言われています。

2009年4月15日水曜日

p38 MAPK Activation by NGF in Primary Sensory Neurons after Inflammation Increases TRPV1 Levels and Maintains Heat Hyperalgesia

Neuron 2002 26: 57-68
半ば古典?ですが、DRGニューロンの組織学的変化が痛覚過敏をうながすことを示した初期の論文です。痛覚過敏のメカニズムとして、Central sensitization-脊髄後角(とより上位中枢)におけるプロセシングの変化とPeripheral sensitization-末梢神経における変化の2つが想定されるわけですが、そのなかのperipheral sensitizationがどのように発症するか、その機序の一つを明らかにしたものです。
カプサイシン受容体VR-1、現在はTRPV1と呼ばれていますが、このイオンチャンネルを欠失させたマウスでは痛みを伴う熱刺激の受容が減弱し、炎症に伴うthermal hyperalgesiaが生じないことが示されていました。しかしながら、どのようなシステムがTRPV1を変化させて炎症に伴うthermal hyperalgesiaを起こさせるのかはわかっていませんでした。
炎症刺激→皮膚NGF増加→知覚神経に存在するtrk-A(NGF受容体)活性化→p38MAPキナーゼのリン酸化→TRPV1の発現が増加というストーリーです。TRPV1が炎症性疼痛を惹起するメカニズムとしては蛋白リン酸化によるTRPV1の活性化を調べる論文が多かった中で、最終ゴールをTRPV1発現増加に設定してあるところがユニークです。

2009年4月6日月曜日

A Decrease in Anandamide Signaling Contributes to the Maintenance of Cutaneous Mechanical Hyperalgesia in a Model of Bone Cancer Pain

The Journal of Neuroscience, October 29, 2008, 28(44):11141-11152
内因性カンナビノイドには強い鎮痛作用がありますが、その一種アナンダミドを分解する酵素の活性が変化して痛覚過敏が生じることを示した論文です。
これまでの研究から、「痛覚過敏が発症していない状態でカンナビノイドを投与しても鎮痛効果は低く、逆にカンナビノイド受容体CB1の拮抗薬を投与すると強い痛みがおきる」ことが知られていました。このことは、内因性カンナビノイドが常にCB1受容体に働きかけて、末梢神経が過敏になりすぎることを防ぐ、ブレーキの役割を果たしていることを示唆します。
そうすると、「何らかの要因で痛覚過敏が起きるのは、内因性のカンナビノイドシステムが破綻するからじゃないの?」という仮説が設定されるわけで、今回の研究によって「少なくともbone cancer painではそのとおり」ということが証明されたわけです。
FAAHはアナンダミドを分解する酵素ですが、今回の研究で興味深いのは皮膚末梢におけるFAAHの活性がDRGにおけるそれとパラレルになっていて、おそらくは一次知覚神経に存在するFAAHが皮膚組織のアナンダミド量を決定していると考えられることです。
ちなみに、ごく最近ですが一次知覚神経におけるFAAHの発現分布について調べた論文がでましたので興味があればこちらもどうぞ。

2009年4月5日日曜日

Increased nerve growth factor after rat plantar incision contributes to guarding behavior and heat hyperalgesia.

Pain. 2005 Sep;117(1-2):68-76.
術後痛の基礎研究では大御所のDr. Brennanのラボから
炎症性疼痛では、局所組織の炎症→皮膚組織のNGFが増加→末梢神経感作→痛覚過敏
というストーリーが知られていたけど、これを術後痛モデルに当てはめた研究です。
NGFの発現量は術後痛で増加して、抗NGF抗体の投与は術後痛を軽減する(ただし効果は自発痛=guarding behavior>heat hyperalgesia>mechanical allodynia)。NGFはC線維を持つDRGニューロンを活性化させることで痛覚過敏に貢献しているらしい。
少し古い論文ですが術後痛と一次知覚神経、すわなちDRGの関係を論じたものはあまり多くないので挙げてみました。
術後痛に対するNGFの貢献が大きいことは確かだと思うのですが、同時に幾つかの疑問もあります。
例えば、いわゆる炎症性疼痛ではNGFがTRPV1の発現量の増加をさせてheat hyperalgesiaを起こすと考えられていますが、術後痛ではTRPV1の発現は増えません。これは術後痛ではNGFの発現量が炎症性疼痛モデルより低いからでしょうか?だとすると、術後疼痛のメインプレーヤーは何か他のものである可能性もあるんじゃないかとか考えてしまいます。