2009年7月26日日曜日

Epigenetic modulation of mGlu2 receptors by histone deacetylase inhibitors in the treatment of inflammatory pain.

Mol Pharmacology 2009 75(5)
ヒストンはDNAを巻き付けておくためのタンパクですが、これがアセチル化したり、メチル化したりすることでヒストン-DNA結合の強さが変化して、その結果DNAからの転写が促進されたり、抑制されたりする・・というのがエピジェネティックな遺伝子発現調節といわれるものです。中でもヒストンのアセチル化・脱アセチル化はもっとも広く研究されていて、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)の阻害剤は抗ガン剤として製剤化されています。
この論文はHDAC阻害剤に痛覚過敏抑制効果があることを報告したものです。2種類のHDAC阻害剤、MS-275とSAHAを5日間反復投与すると、ホルマリン足底注入後のhyperalgesiaが2nd phase中心に抑制されるようです。この効果は薬剤の単回投与では抑制されません。HDAC1&HDAC2がDRGとDHに存在することがウェスタンと免疫染色で示されています。著者らはHDAC阻害剤がDRG&DHのHDACに効いていると考えているようです。HDAC阻害剤の鎮痛効果がGluR2/3阻害剤LY341495によって抑制されるので、その効果はGluR2/3のシグナリングを介している、ようです。確かに、DRG/DHにおけるGluR2の発現量はHDAC阻害剤で増加しています。HDACはヒストンを脱アセチル化して遺伝子の発現を誘導する・・ということは、HDAC阻害剤はヒストンの脱アセチル化を抑制するので遺伝子発現は減少する・・・ような気がするのですが、ここでは逆になっています。そのメカニズムですが、著者らはNFkBのアセチル化に注目しています。すなわち、HDAC阻害剤の投与によりNFkBのアセチル化が進んでmGluR2の転写が活性化されるのではないかと考えているようです。
HDACの役割として、ヒストンとNFkB、どちらのアセチル化が主体なのかよくわかりません。少なくとも僕はヒストンを介する作用しか知りませんでしたが、組織や細胞によってさまざまなのでしょうか。HDAC阻害剤に鎮痛作用があることを報告したということについては評価してよいと思いますが、個人的にはヒストンのアセチル化の程度がどうなっているのか調べて欲しかったです。

2009年7月10日金曜日

Differential contribution of SNARE-dependent exocytosis to inflammatory potentiation of TRPV1 in nociceptors.

FASEB J. 2009 Jul 7. [Epub ahead of print]
炎症性疼痛、とくに熱に対する痛覚過敏にTRPV1の活性化が関与していることは広く知られた事実です。それで、プロスタグランディンやブラジキニンがどうやってTRPV1を活性化させるか?ということについては、細胞内のPKCやPKAが関与しているというような話題に始まり、現在ではTRPV1の細胞内分布の変化「TRPV1は普段は細胞質に分布しているけど、活性化されると細胞膜に発現する」という現象に注目が集まっています。
この論文はこれまでTRPV1を活性化させると言われてきた様々な物質:NGF, IGF-I, ATP, BK, IL-1, arteminをDRG細胞に作用させたときにTRPV1の細胞内発現がどう変わるかを調べています。NGF、IGF-1、ATPを用いるとTRPV1の膜表面への発現が増加しますが、BK、IL-1、arteminでは変化しません。カルシウムイメージングでみると、これらすべての物質がTRPV1を活性化させますが、TRPV1を膜表面に発現させる役割を持つSNAREタンパクの阻害剤が有効なのはNGF、IGF-1、ATPによる活性化の場合だけであることがわかりました。
注目するべきはボツリヌストキシンA(ボトックス)との関係でしょうか。ボツリヌストキシンは痙性斜頸とか顔面痙攣など筋肉への作用が期待されて臨床応用が始まりましたが、頭痛などへの応用も考えらているようです。
いったいどうしてボツリヌストキシンが痛みに効くのか?というところですが、ボツリヌストキシンはSNAREタンパクを強力に阻害する作用があり、SNAREを利用して細胞内小胞体からシナプスへとアセチルコリンを放出する機構をブロックすることで筋弛緩作用が生まれる、ようです(参考)。ボツリヌストキシンがカプサイシンによる神経感作をブロックするというヒトのデーターもあって、臨床的にも両者の関係は注目されているのですが、膜タンパクであるイオンチャネルTRPV1と神経伝達物質アセチルコリンが同じシステムで細胞内移動を行っていて、ボツリヌストキシンの鎮痛作用にこんな作用機序があるというのは興味深いです。
この論文によると、TRPV1感作物質にはSNARE dependentのものとSNARE independentなものの二つがあるということになります。炎症部位にはTRPV1感作物質がごちゃまぜに、大量に存在するのでしょうから、臨床的にボツリヌストキシンで100%TRPV1の感作をブロックするというのはなかなか難しい話だ、ということでしょうか。

2009年7月2日木曜日

Experimental arthritis causes tumor necrosis factor-α-dependent infiltration of macrophages into rat dorsal root ganglia

Experimental arthritis causes tumor necrosis factor-α-dependent infiltration of macrophages into rat dorsal root ganglia which correlates with pain-related behavior→題名が長すぎてタイトルからはみ出したので。
Pain in press
脊髄のマイクログリアが活性化することで痛覚過敏が発症する、というメカニズムは今やとっても有名です。同じような現象がDRGで、しかも神経損傷のない慢性関節炎モデルでも起きている、というのがこの論文の趣旨です。
マクロファージ(DRGの場合はマイクログリアではなくてマクロファージなんですかね?)のマーカーにED1抗体を使っていて、CFA全身投与後の関節炎モデルDRGを染めています。確かにED1陽性な小型細胞が染まっています。ED1陽性細胞の増加は神経損傷モデルでも認められるらしいのですが、我々がOX42で検討した時は明確なシグナルはありませんでした。ED1とOX42では認識する細胞が若干違うのでしょうか?
この論文ではTNF-alphaの阻害剤を投与していて、疼痛の減弱とともにED1の発現が抑制されています。目を引いたのは、DRGの中の血管に注目してVCAM-1の発現を検討しているところです。炎症を起こした関節支配領域のDRGだけでVCAM-1の発現が増加していて、その分布はDRGの血管に一致しています。血管内皮でVCAM-1が活性化して、それがマクロファージ浸潤の引き金になるというメカニズムを想定しているようです。脊髄のマイクログリアの場合、血管からやってくる説のグループと神経組織から移動するだけ説のグループとの間で結論はでていない?ような気がしていましたが、不勉強で詳細は知りません。DRGの場合はさらに末梢ですから、血管からやってくる、ということでよいようにも思えます。この論文だけでは根拠として弱いですけど。