2009年8月22日土曜日

Reduction of bone cancer pain by activation of spinal cannabinoid receptor 1 and its expression in the superficial dorsal horn of the spinal cord in

Anesthesiology. 2009 Jul;111(1):173-86.
カンナビノイドはオピオイドと比較されることが多いです。その際よく聞くのは慢性疼痛モデルではMORの発現は低下するけれどCB1の発現は低下しないので、慢性痛に対してはオピオイドよりもカンナビノイドがより効果的なのではないか、という可能性を提示するものです。
この論文はこの可能性を骨がん転移モデルで検証したものです。脊髄におけるCB1の発現を免疫染色で確認しています。脊髄CB1の発現には諸説あることは以前述べた通りですが、この論文ではCB1は軸索側ではなくて樹状突起側にだけあるので、おそらくは脊髄内のinterneuronに発現しているのだろうと結論しています。行動解析では脊髄内に投与したCB1アゴニストは骨がん転移に伴う疼痛を緩和しており、ここでは脊髄CB1は鎮痛の方向に働いていることがわかります。面白いことに骨がん転移モデルでは脊髄MORの発現は低下するけれど、CB1の発現は変化していません。そんなわけで、この論文は癌性疼痛のなかでも難治性と言われる骨がん転移にCB1の投与が奏功する可能性を提示しています。


2009年10月5日
追記です。CB-1は樹状突起ではなくて軸索に発現してます。指摘頂いたので訂正します。

Membrane-delimited coupling of TRPV1 and mGluR5 on presynaptic terminals of nociceptive neurons

J neurosci 2009 29(32) 10000-10009
カプサイシン受容体TRPV1はDRGから末梢組織に輸送され、皮膚に加わる熱刺激などを痛覚として受容する働きがあります。
一方、脊髄でTRPV1の免疫染色を行うとTRPV1陽性な終末が後角を中心に認められ、TRPV1が脊髄にも運搬されていることがわかります。TRPV1を興奮させる刺激、すなわち42度以上の熱、低いpHあるいはカプサイシンが脊髄に存在するとは考えにくく、脊髄後角のTRPV1のfunctionは長く不明のままでした。
この論文は脊髄のTRPV1がGタンパク共益型のグルタミン酸受容体mGluR5の興奮により合成されるdiacylglycerolという脂質によって活性化され、後角ニューロンのEPSCを増加させることを報告しています。mGluR5作動薬DHPGを髄腔内投与すると一過性の痛覚過敏が生じますが、TRPV1ノックアウトマウスでは痛覚過敏の発現が弱いことが示されています。電気生理ではDHPGはEPSCの頻度を増加させますが、これはTRPV1阻害剤でブロックされます。培養DRGニューロンにDHPGを投与すると一過性の細胞内カルシウム濃度上昇が認められ、TRPV1阻害剤でブロックされています。OAGという、細胞膜を透過しやすいDAGアナログでも同様の現象が確認されています。
mGluR5がEPSCを増加させることは以前から知られていましたが、どのように脊髄後角ニューロンを興奮させるかということは、これまで知られていませんでした。この論文はmGluR5の下流にはTRPV1があって、脊髄後角において興奮性に働く可能性があることを示しています。
mGluR5はEPSCだけでなく、IPSCも増加させる作用があるそうです。今回紹介した論文はその一方だけを取り出して調べているわけで、後角ニューロンに対するmGluR5の作用は相反的であるということは念頭に置いておく必要はありそうです。慢性疼痛の発症にmGluR5-TRPV1の系がどのように関与するのか、さらに検討していく必要があるのでしょう。

2009年8月15日土曜日

日本麻酔科学会第56回学術集会

今週の日曜日から日本麻酔科学会です。新型インフルエンザの影響で、当初予定された日程からこの時期に延期となりました。
僕は2日目、月曜日に発表を予定しています。知覚神経のナトリウムチャネルについて60分弱の枠でお話しします。ナトリウムチャネルは局所麻酔薬のターゲットですから、麻酔科医はナトリウムチャネルを利用して仕事をしていると言ってもよいかと思います。最近10年間で明らかにされたナトリウムチャネルサブユニットの多様性とその意義、そしてサブユニットの多様性を利用した選択的ナトリウムチャネル阻害剤による鎮痛剤開発の現状について報告します。
同じ時間帯には横綱級?な先生方のご講演が目白押しですので、ひそかに盛り上がったらいいなぁと思います。

2009年8月11日火曜日

Spinal endocannabinoids and CB1 receptors mediate C-fiber-induced heterosynaptic pain sensitization.

Science. 2009 Aug 7;325(5941):760-4
マリファナなどカンナビノイドに鎮痛作用があるのはよく知られていますが、不思議なことに通常のCB1ノックアウトマウスは痛みに低感受性です。末梢神経のCB1だけをノックアウトしたマウスは反対に痛みに対する感受性が亢進するので、中枢神経のどこかの部位でカンナビノイド-CB1のシステムが痛み受容を促進する働きを持っているのだろうと考えていました。CB1受容体はシナプス前に存在し、シナプス後側からreleaseされる内因性カンナビノイド2AGによって、そのシナプスを抑制する・・というのが脳内における内因性カンナビノイドの一般的な働きです。ということは、CB1受容体と2AGが存在するシナプスが興奮性シナプスならばCB1が活性化すると疼痛は減弱し、逆に抑制性シナプスにCB1が存在すればCB1の活性化は「抑制ニューロンの抑制」によって疼痛を惹起する方向に働くことになります。
それでこの論文ですが、脊髄後角におけるCB1の局在を電子顕微鏡を使って調べています。VIAATというマーカーを使った二重染色で、CB1は抑制性シナプスのシナプス前に存在することが確認されています。後角ニューロンへのパッチクランプでは、CB1アゴニストがグリシン、GABA作動性のIPSCを抑制させることが示されています。これらの所見は、脊髄後角のカンナビノイドシステムには「抑制ニューロンの抑制」を生じさせるしくみがそなわっていることを示しています。
実際にこのシステムが働くかどうかについては行動解析で検討しています。カプサイシンを足底に投与するとC線維を強力に刺激することでcentral sensitizationが生じますが、CB1アンタゴニストを髄腔内に投与するとcentral sensitizationによる痛覚過敏は減弱します。同様の結果はCB1ノックアウトマウスでも認められ、さらには、脊髄後角抑制性介在ニューロンのCB1を欠失させたコンディショナルノックアウトでも認められました。そんなわけで、Activity dependentなCentral sensitizationの形成に脊髄のカンナビノイドシステムが関与していることが示されました。
central sensitization, disinhibitionとカンナビノイドの関係、脊髄レベルでは鎮痛ではなく疼痛惹起に働く可能性などとても興味深い内容です。

ところで、脊髄のカンナビノイドといえば、つい先日このような論文もでています。
同じ脊髄後角で、CB1と2AG合成酵素DGLの局在を調べています。不思議なことに、こちらの論文は一次知覚神経終末にCB1、二次ニューロンにDGLが存在するケースが多くて、抑制性の介在ニューロンにはあまり存在しないと報じています。上記論文とは全く逆の結果で、もっと不思議なことには行動解析の結果も反対、すわなちCB1アンタゴニストがストレスによる鎮痛作用を抑制するという結果を提示しています。一次知覚神経にCB1が発現することは僕も確認していますが、脊髄のCB1は一次知覚神経由来ではない、というのが最近の定説で、僕自身も末梢神経のCB1は末梢組織で働くと思っています。なのでこの論文の結果には素直にうなずけない面があります。
蛇足ですがこの論文のsubmitの日付とacceptの日付を見るとちょっとびっくりします。上記論文がpublishされたタイミングとの関係はどうなんでしょうかね。

仮に両方の神経終末にCB1が存在したとすると、脊髄にCB1アゴニスト・アンタゴニストを投与するという選択はカンナビノイドの選択的投与戦略としてはぱっとしない、ということになります。やはりカンナビノイドは、CB1アゴニストを末梢に投与する、というのがもっとも有効に思えます。