2009年8月11日火曜日

Spinal endocannabinoids and CB1 receptors mediate C-fiber-induced heterosynaptic pain sensitization.

Science. 2009 Aug 7;325(5941):760-4
マリファナなどカンナビノイドに鎮痛作用があるのはよく知られていますが、不思議なことに通常のCB1ノックアウトマウスは痛みに低感受性です。末梢神経のCB1だけをノックアウトしたマウスは反対に痛みに対する感受性が亢進するので、中枢神経のどこかの部位でカンナビノイド-CB1のシステムが痛み受容を促進する働きを持っているのだろうと考えていました。CB1受容体はシナプス前に存在し、シナプス後側からreleaseされる内因性カンナビノイド2AGによって、そのシナプスを抑制する・・というのが脳内における内因性カンナビノイドの一般的な働きです。ということは、CB1受容体と2AGが存在するシナプスが興奮性シナプスならばCB1が活性化すると疼痛は減弱し、逆に抑制性シナプスにCB1が存在すればCB1の活性化は「抑制ニューロンの抑制」によって疼痛を惹起する方向に働くことになります。
それでこの論文ですが、脊髄後角におけるCB1の局在を電子顕微鏡を使って調べています。VIAATというマーカーを使った二重染色で、CB1は抑制性シナプスのシナプス前に存在することが確認されています。後角ニューロンへのパッチクランプでは、CB1アゴニストがグリシン、GABA作動性のIPSCを抑制させることが示されています。これらの所見は、脊髄後角のカンナビノイドシステムには「抑制ニューロンの抑制」を生じさせるしくみがそなわっていることを示しています。
実際にこのシステムが働くかどうかについては行動解析で検討しています。カプサイシンを足底に投与するとC線維を強力に刺激することでcentral sensitizationが生じますが、CB1アンタゴニストを髄腔内に投与するとcentral sensitizationによる痛覚過敏は減弱します。同様の結果はCB1ノックアウトマウスでも認められ、さらには、脊髄後角抑制性介在ニューロンのCB1を欠失させたコンディショナルノックアウトでも認められました。そんなわけで、Activity dependentなCentral sensitizationの形成に脊髄のカンナビノイドシステムが関与していることが示されました。
central sensitization, disinhibitionとカンナビノイドの関係、脊髄レベルでは鎮痛ではなく疼痛惹起に働く可能性などとても興味深い内容です。

ところで、脊髄のカンナビノイドといえば、つい先日このような論文もでています。
同じ脊髄後角で、CB1と2AG合成酵素DGLの局在を調べています。不思議なことに、こちらの論文は一次知覚神経終末にCB1、二次ニューロンにDGLが存在するケースが多くて、抑制性の介在ニューロンにはあまり存在しないと報じています。上記論文とは全く逆の結果で、もっと不思議なことには行動解析の結果も反対、すわなちCB1アンタゴニストがストレスによる鎮痛作用を抑制するという結果を提示しています。一次知覚神経にCB1が発現することは僕も確認していますが、脊髄のCB1は一次知覚神経由来ではない、というのが最近の定説で、僕自身も末梢神経のCB1は末梢組織で働くと思っています。なのでこの論文の結果には素直にうなずけない面があります。
蛇足ですがこの論文のsubmitの日付とacceptの日付を見るとちょっとびっくりします。上記論文がpublishされたタイミングとの関係はどうなんでしょうかね。

仮に両方の神経終末にCB1が存在したとすると、脊髄にCB1アゴニスト・アンタゴニストを投与するという選択はカンナビノイドの選択的投与戦略としてはぱっとしない、ということになります。やはりカンナビノイドは、CB1アゴニストを末梢に投与する、というのがもっとも有効に思えます。

0 件のコメント: