2010年12月30日木曜日

2010年のまとめ

今年一年に紹介した記事は24本、1ヶ月に2本論文を紹介するペースに落ち着きそうな予感がします。
もう一度読み直してみて一番気になる論文はこれでしょうか。
Evidence for a Role of Endocannabinoids, Astrocytes and p38 Phosphorylation in the Resolution of Postoperative Pain
PLoS One. 2010 May 28;5(5):e10891. PubMed PMID: 20531936.
術後痛が消退するのは慢性化を防ぐメカニズムがあるからだ、という視点からの研究は今後盛んになるのではないかと思います。
というわけで、来年もよろしくお願いします。

2010年12月13日月曜日

アセトアミノフェンで脳障害?

PloS oneより
Acetaminophen Induces Apoptosis in Rat Cortical Neurons
December 2010 | Volume 5 | Issue 12 | e15360
アセトアミノフェン大量投与で肝障害が出現することはよく知られた事実ですが、ラットにおいて、肝障害を引き起こす容量よりも少ない濃度のアセトアミノフェンが大脳皮質のニューロンのアポトーシスを誘発させることをin vivoとin vitroで示した論文です。
臨床的には肝障害は意識障害や脳障害を誘発させるので、アセトアミノフェン大量投与で肝障害が生じている患者を診察し、意識障害を認めても肝性脳症の類かと思ってしまう可能性は高いと思います。果たしてヒトでもアセトアミノフェンが直接的に脳障害を引き起こすことがありえるのでしょうか。

とうとう通算10000PVとなったようです。これからもよろしくお願いします。
おなじみのK先生はキリ番ゲットならずで残念でした。また懲りずにチャレンジしてみてください。

2010年12月9日木曜日

Biennial Review of Pain

Introducing the Biennial Review of Pain
Pain in press
というeditorialがPain誌に掲載されています。ご存じのようにIASPのmeetingが隔年開催で、それに合わせて二年に一度の誌上review大会をPainで開催するという趣旨のようです。雑誌として届いていないので内容は分かりませんが、どのようなreviewが載るのか、楽しみにしています。

2010年11月30日火曜日

遷延性術後痛

Painより
A prospective study of neuropathic pain induced by thoracotomy: Incidence, clinical description, and diagnosis
Pain in press
neuropathic painの新しい基準で開胸術後の遷延性術後痛を前向きに診断した研究結果。約半分がneuropathic pain (NP)と診断できるらしい。神経損傷があって、それが原因で慢性痛に移行するというストーリーで病態を解説できるのは全体の半分しかないのであれば、残り半分の疼痛の病態はいったいなんなのだろうか?
NPといつ症状と神経障害という病態の乖離についてコメントしているeditorialがついてます。

2010年11月8日月曜日

focus on pain

Nature medicineがpainに関する総説のシリーズを掲載しています。どのreviewも勉強になりそうですが、いっぺんに掲載されるとどれから手をつけたらよいのか分からなくなると言う欠点があります。Nociceptor sensitization in pain pathogenesis pp1248 - 1257 Michael S Gold & Gerald F Gebhart, Nature medicine16(11)が個人的にはもっとも参考になりそうです。
Neuronより
VGLUT2-Dependent Glutamate Release from Nociceptors Is Required to Sense Pain and Suppress Itch 68, 543–556, November 4, 2010 Nav1.8cre/VGLUT2loxでコンディショナルKOすると疼痛が減弱する一方でかゆみが増強するし、痛み刺激によるかゆみの緩和が失われる、との報告。

2010年10月21日木曜日

Central of Central sensitization

Painより
Central sensitization: Implications for the diagnosis and treatment of pain
Clifford J. Woolf in press
いろんな意味でCentral sensitizationの研究を推進し続けたCJWのReviewがPainに乗っています。もしかするとIASPで賞をとったことと関係があるのかもしれません。報告から30年、その概念もあと数年で違ったものになるのではないか、という気がします。

2010年9月30日木曜日

過ぎたるは及ばざるがごとし

NEJMより
Tanezumab for the Treatment of Pain from Osteoarthritis of the Knee
Nancy E. Lane, M.D., Thomas J. Schnitzer, M.D., Ph.D., Charles A. Birbara, M.D., Masoud Mokhtarani, M.D., David L. Shelton, Ph.D., Mike D. Smith, Ph.D., and Mark T. Brown, M.D.
September 29, 2010 (10.1056/NEJMoa0901510)
変形性膝関節炎に対するNGF中和抗体の臨床試験。効果がありすぎて関節破壊が進行したという皮肉な結果になりました。John woodがeditorialにコメントしています。

2010年9月25日土曜日

言葉による痛みの仕分け

Pros oneより
Beissner F, Brandau A, Henke C, Felden L, Baumgärtner U, et al. (2010) Quick Discrimination of Adelta and C Fiber Mediated Pain Based on Three Verbal Descriptors. PLoS ONE 5(9): e12944. doi:10.1371/journal.pone.0012944
痛みがどのように表現されるかでそれがAdeltaあるいはC-fiberのどちら由来であるか、一定の確率で見分けることができる、という論文。dullやpressingはC-fiberっぽく、prickingはAdeltaらしいと。そういわれれば昔からそうだし、でもodds比まで出されるとdataとして迫力があるなと思いました。痛みの表現は背景にある文化に影響されそうで、国際比較とかやったら面白いかも。

2010年9月21日火曜日

末梢のCB1ふたたび

Nature Neuroscienceより
Clapper JR, Moreno-Sanz G, Russo R, Guijarro A, Vacondio F, Duranti A, Tontini A, Sanchini S, Sciolino NR, Spradley JM, Hohmann AG, Calignano A, Mor M, Tarzia G, Piomelli D. Anandamide suppresses pain initiation through a peripheral endocannabinoid mechanism. Nat Neurosci. 2010 Sep 19. [Epub ahead of print] PubMed PMID: 20852626.
中枢神経に移行しないFAAH inhibitorを使った研究。CB1が末梢神経において鎮痛効果を発揮することを裏付けるとともに、将来的に有望な鎮痛戦略を示しているような気がします。

2010年9月10日金曜日

HDAC

molecular painより
Inhibition of class II histone deacetylases in the spinal cord attenuates inflammatory hyperalgesia. Mol Pain. 2010 Sep 7;6(1):51. PubMed PMID: 20822541.

ヒストン構造の変化が遺伝子発現を調節していることは細胞レベルでは言われているけど、神経細胞が痛覚伝達システムの中においてこのようなメカニズムを有しているかということは確認されていなかった。この論文はHDAC阻害剤が疼痛を抑制することを調査している。HDACを阻害すると疼痛は抑制されるけど、その作用を亢進させるとどうなるのだろう?そしてHDACの下流にある遺伝子は?

2010年9月5日日曜日

IASP

IASPでモントリオールに行ってきました。その昔オリンピックを開催した都市ですが、そのことを記憶しているのは僕らの世代が最後なのではないでしょうか。東海岸の往復は疲れます。次回横浜も盛会となることを祈ります。
Painより
Populations of inhibitory and excitatory interneurons in lamina II of the adult rat spinal dorsal horn revealed by a combined electrophysiological and anatomical approach Original Research Article
Toshiharu Yasaka, Sheena Y.X. Tiong, David I. Hughes, John S. Riddell, Andrew J. Todd
前回のIASPの時のラボ見学でお世話になったことを思い出しました。アクセプトおめでとうございます。
Direct blockade of inflammatory hypernociception by peripheral A1 adenosine receptors: Involvement of the NO/cGMP/PKG/KATP signaling pathway
Flávia Oliveira Lima, Guilherme R. Souza, Waldiceu A. Verri Jr., Carlos A. Parada, Sergio H. Ferreira, Fernando Q. Cunha, Thiago M. Cunha
アデノシンはATPのカウンターパートとしての機能があると思っていたのですが、ちらっと見た限りそのあたりに対する解析は無かったような気がします。

2010年8月14日土曜日

ご報告

8月から職場が変わりました。
手術室のことやら何やらについてすべての仕事の80%くらいの勢いで関わらないととてもついていけないようなことになっています。だからといってこのブログをやめてしまうのも何かもったいないので、気になる論文のタイトルを列挙して、一言だけ感想を付け加えるような形式に変更しようと思います。
新しい職場での仕事っぷり?はこちらでまとめていきます。麻酔に興味のある人はのぞいてみてください。

http://kfrchanesth.blogspot.com/

気になる論文:J Neuroscienceより2報
Small RNAs Control Sodium Channel Expression, Nociceptor Excitability, and Pain Thresholds.
Inhibition of inflammatory pain by activating B-type natriuretic Peptide signal pathway in nociceptive sensory neurons.
small RNAは今時な感じ。それにしてもNav1.8-Creマウスは大活躍です。それにくらべるとBNPはすでに手垢のついたmoleculeな印象ですが、これまで痛みとの関連は報告されていなかったのでしょうか。

2010年6月13日日曜日

Evidence for a Role of Endocannabinoids, Astrocytes and p38 Phosphorylation in the Resolution of Postoperative Pain

PLoS One. 2010 May 28;5(5):e10891. PubMed PMID: 20531936.
術後痛モデルであるskin incisionモデルは疼痛が数日間で消失する「軽度な」あるいは「急性の」疼痛モデルだと言われています。そのような行動解析の結果から、「術後痛モデルにおいて知覚神経が機能的・形態的に変化することは少ない」と思われていましたが、最近は脊髄でアストロサイトの活性化が生じるなどの報告がなされ、むしろ「知覚神経の変化はあるけれども、それが永続的でない」という理解に変化しつつあるのではないかと思います。
この論文は術後痛モデルにおいていかに疼痛や神経の変化が消退するか?ということを解析したものです。消退させるメカニズムとして内因性カンナビノイドに焦点を当てています。
図1に示すとおり、incision painによる痛覚過敏と脊髄アストロサイトの活性化は自然に消退します。痛覚過敏は機械刺激への反応、アストロサイトの活性化はGFAPで見ています。
図2に脊髄における内因性カンナビノイドの発現量が示されています。アナンダミド(AEA)は術後痛の発症時期に一致して一過性に減少、2-AGは疼痛の消退時期に一致して増加しています。
図3と図4はCB1/CB2の脊髄における局在を示しています。CB1はニューロン、CB2はマイクログリアに存在することが示されています。
図5はCB1/CB2の阻害剤が術後痛モデルの痛覚過敏に与える影響を示しています。CB1/CB2の阻害剤を投与すると、投与終了後も痛覚過敏が長く続くことが示されています。
図6ではCB1/CB2阻害剤が脊髄アストロサイトの発現に与える影響が示されています。CB阻害剤を投与するとGFAPの発現量は長く保たれるようです。
図7はプロペントフィリン(グリア細胞抑制剤)がCB阻害剤により生じた遷延性の痛覚過敏を抑制することを示しています。
図8、図9で、アストロサイトとマイクログリアに発現するリン酸化p38がCB1/CB2阻害剤でoverexpressionし、プロペントフィリンによって抑制されることが示されています。
内因性カンナビノイドの発現量が一時的に増加して痛覚過敏とアストロサイトの活性化が消退していくというメカニズムはストーリーとして面白いです。痛覚過敏やそれに伴う知覚神経の変化が勝手に元に戻るのではなくて、元に戻すためのシステムがあるはずだ、という発想もユニークですね。

2010年5月22日土曜日

Long-term effect of sciatic nerve block with slow-release lidocaine in a rat model of postoperative pain

リドカイン徐放シート開発の報告です。
図1にin vivo, in vitroでリドカインがどのようにリリースされていくか示されています。最初の一日で40%程度が放出され、80%ぐらいは残り3日間で放出されるようです。
術後痛モデルに応用すると、3日間にわたって痛覚過敏が抑制されることがわかります(図2)。徐放シートを用いることでリドカインの血中濃度の上昇は抑制(図4)され、運動能も抑制されにくい(図3)ことがわかります。術後痛モデルでは脊髄後角ニューロンにc-fosが発現しますが、これもリドカイン徐放シート群では発現が抑制されています(図5, 6)。組織学的にも神経障害性は認めない(図7)ようですのでヒトへの応用が期待できるのではないでしょうか。

2010年5月2日日曜日

Heat generates oxidized linoleic acid metabolites that activate TRPV1 and produce pain in rodents

J Clin Invest. 2010 Apr 26. [Epub ahead of print]
TRPV1が42度以上の熱を感知するセンサーであることは周知のことと思いますが、そのメカニズムに脂質の代謝産物が関与しているという報告です。以前からリポキシゲナーゼの代謝産物がTRPV1を活性化させるという報告がありましたが、今回の報告は、熱を感知するシステムそのものが脂質代謝に依存するのではないかという説なのでより過激です。
マウスの皮膚組織を培養して、熱刺激を与えておいて、その培養液を三叉神経節細胞に与えると細胞内カルシウムが増加します(図1)。この反応はTRPV1ノックアウトではおこらず、TRPV1阻害剤RTXで阻害されることからTRPV1を介した反応であることがわかります。熱刺激としては43度ぐらいから反応があり、48度までは増加が認められています。同じ現象はCHO cellにTRPV1を強制発現させても認められています。組織を熱してでてきた物質をHPLCで解析するとリノレイン酸の代謝産物である9HODEと13HODEであることがわかりました。両者は熱刺激に応じて合成、分泌されるようです(図2)。9HODEと13HODEの生合成は皮膚だけではなくて、CHO cellにおいても生じるようです。図3では9HODEがTRPV1のアゴニストであることが示されています。カプサイシンによる興奮を抑えて、熱に対する興奮を抑えないTRPV1阻害剤AMG8562を投与しても9HODEによるTRPV1の興奮は抑えられないので、9OHDEはカプサイシンとは違う部位に働いてTRPV1を興奮させることがわかります。9OHDEをマウスに投与すると急性のthermal hyperalgesiaが生じるようです(図4)。一方、9HODA/13HODAを生合成する経路の阻害剤、あるいは9HODA/13HODA抗体はvitroではTRPV1の熱感受性が低下させ、vivoではラットの熱に対する逃避時間を延長させます(図5)。single channel recordingのデーターでは、熱刺激と9HODAのlatencyがほぼ同一であること(図6)、リノレイン酸が濃度依存的にTRPV1をopeningすること(図7)、inside-outの状態でwashするとTRPV1の熱への反応性が失われるが、リノレイン酸を添加することで回復すること(図8)が示されています。
そんなわけで、熱依存性に合成される脂質代謝産物がTRPV1のリガンドであって、TRPV1の熱に対する反応性がほぼ説明できるということがわかりました。炎症性疼痛の時には、熱に対するTRPV1の反応性が変化する現象が起きますが、これも受容体の変化だけではなく、リガンド合成の部分も考えないといけないということになります。他のthermo-TRPでも同様なのでしょうか?脂質おそるべし。

2010年4月21日水曜日

Resolvins RvE1 and RvD1 attenuate inflammatory pain via central and peripheral actions

Nat Med. 2010 Apr 11. [Epub ahead of print]
Resolvinというのは、ω3不飽和脂肪酸から抽出された抗炎症作用を持つ脂質です。EPA由来のものをResolvinE1 (RvE1)、DHA由来のものをResolvinD1 (RvD1)と呼んでいます。非常に強い抗炎症作用があることは知られていましたが、この論文では炎症性疼痛に対する鎮痛作用をみています。
まずRvE1を足底に投与してホルマリン試験を行っています。ホルマリン試験における第II相がオピオイドやCOX2阻害剤と同程度に抑制されることが示されています。この作用はナロキソンで拮抗されず、PTXでリバースされているのでオピオイド受容体以外のGPCRが関与していると考えられます。実際に、ChemR23というResolvinの受容体がDRGと脊髄に存在することが形態学的に証明されています(図1)
図2では炎症性疼痛モデルといわれるCFA/カラゲニンの二つのモデルへの鎮痛効果が検証されています。RVE1やRVD1は髄腔内投与しても、足底投与しても鎮痛効果を発揮するようです。このうち、足底投与による鎮痛作用の少なくとも一部は炎症を軽減することによることが示されています。
知覚神経への影響ですが、TNFalphaやカプサイシンの髄腔内投与による痛覚過敏を抑制する効果があること、DRGおよび脊髄後角のERK発現を抑制すること、後角ニューロンのEPSCの頻度を増加させ、NMDA電流の大きさを小さくすることなどから(脊髄から見て)presynaptic, postsynapticの両方に働くと結論づけています(図3,4)。
一つの図で普通の論文が一個書けるような濃密な論文で、Ru-Rongらしいできあがりです。

2010年4月11日日曜日

Epigenetic gene silencing underlies C-fiber dysfunctions in neuropathic pain.

J Neuroscience 2010 30: 4806-14
NRSF/RESTは抑制性の転写因子で、非神経細胞においてさまざまなneuronal geneの発現を抑える役割を持っています。最近では神経細胞においてもなんらかの役割を持っていて、特に神経の病的変性に伴う遺伝子発現の変化との関連が注目されているようです。
この論文は末梢神経を損傷させたときの遺伝子発現の変化にNRSFがどのように関与するかを調査したものです。
図1ではaxotomyで発現レベルが低下する代表的な遺伝子、MORとNav1.8のプロモーター領域にNRSFを認識するモチーフ(NRSE)があることを示しています。NRSFの発現量は神経損傷によって増加しています(図2)。NRSFが遺伝子発現を抑制するときにはヒストンの脱アセチル化が必要ですが、Nav1.8、MORの両者において脱アセチル化が生じていることが示されています(図3)。NRSFをノックダウンするとMORやNav1.8を含む種々の遺伝子発現の低下が抑制され(図4)、C-fiber刺激の反応閾値の低下も抑制されています(図5)。神経損傷後に観察されるモルヒネへの感受性の低下もNRSFのノックダウンによって抑制されます。
これまで、神経損傷に伴って遺伝子発現が低下することについてはいろいろと調べられて来ましたが、今回の論文は全く新しい切り口でこのメカニズムを理解しようとするものだと思います。従来の考え方である「末梢組織由来の神経栄養因子の輸送が途絶する」現象との関連性などはどのようになっているのでしょうか。
蛇足ですが、僕もDRGのwhole cell レベルでヒストンのアセチル化の程度を調べたことがありました。結局、wholeではあまり変化がなくて、やはりこの論文のようにChipアッセイをしないとその差はdetectできないのでしょう。

2010年3月25日木曜日

Opioid-Induced Long-Term Potentiation in the Spinal Cord Is a Presynaptic Event

J. Neurosci. 2010;30 4460-4466
レミフェンタニルの登場でオピオイドによる痛覚過敏(opioid-induced hyperalgesia: OIH)が注目されています。OIHのメカニズムを脊髄後角において調べた論文です。
オピオイドの鎮痛メカニズムが脊髄後角の痛覚伝達を抑制することにあって、これにはpresynapticな作用が主として関与しています。昨年、OIHと類似の状況で脊髄にLTPが生じ、これはpostsynaptic eventであるという論文が出ましたが、今回の論文はそうではなくて、presynapticなイベントであることが示されています。
まずはじめにラット脊髄にDAMGO(MORのアゴニスト)を投与して、これをwashoutするとC-fiberを刺激した後に生じる脊髄ニューロンの電気的興奮が増大する現象を示しています。Paired pulse ratioが増大していることからこの現象はPresynaticではないのかと考えているようです(図1)。注目するべきことに、約半数の後角ニューロンはこのようなLTPをひきおこさないようです。
図2ではGタンパク阻害剤のGDP-b-Sを後角ニューロンに投与してもLTPが抑制されないことが示されています。このdataから、シナプス後側の役割が限定的であると考えているようです。
さらに、一次知覚神経の中でTRPV1陽性ニューロンだけを選択的にablationするとLTPが消失しそれだけではなくてDAMGOによるEPSCの抑制効果が遷延する現象が観察されています(図5)。
これらの現象にはpresynapticな細胞内カルシウム濃度の上昇とNMDA受容体の活性化が必要であることが図6と図7で示されています。
TRPV1を除去するとDAMGOによるmEPSCの頻度が長い間抑制されるのがとても面白いと思います。一体どのようなメカニズムが関与するのでしょうか。

2010年3月19日金曜日

Molecular basis of infrared detection by snakes

Nature, AOP, 2010 Mar14
ヘビはピットと呼ばれる器官によって獲物や外敵の体温を関知して攻撃するそうです。その感度は1m離れた対象物の体温を感じることができるくらい鋭敏で、視覚とあわせることでかなり正確に対象物を把握できるらしいです。このピット器官が熱を感受するための分子センサーがTRPA1だという報告です。
Pitを持っているガラガラヘビのDRGと三叉神経節(TG)の遺伝子発現プロファイルを比較したところ、TRPA1はDRGよりもTGにおいてはるかに高い発現を示しました。同じ比較をピット器官を持たないヘビで行うとTRPA1の発現はDRGとTGで変わりがないそうです(図1-2)。 ピット器官の神経支配はTG由来なのでピット器官における熱受容とTRPA1との関係が注目されたわけです。
それで、ヘビTRPA1をHEKに導入してみたところ、室温では興奮しないが温度を上昇させると急速に興奮することがわかりました。閾値はヘビにより違いますがガラガラヘビでは28度前後に閾値があります(図3)。
実際にTGニューロンを培養してカルシウムイメージングしてみると、熱刺激で興奮するニューロンが多数であり、この反応はTRP阻害剤のRhutenium redによりブロックされます(図5)。
ほ乳類のTRPA1はワサビや麻酔薬などの化学物質に感受性がある代わりに熱刺激への感受性は失われています。動物の中ではヘビとコウモリが近赤外線のモニタリングができるらしいですが、これらの種ではすべてTRPA1に熱感受性があるのかどうかはわかりません。ピット器官はヘビが生存するには欠かせない器官だそうで、ほ乳類が有害刺激を避けるためにTRPA1を利用していることとは別の意味でクリティカルな役割を担っているわけです。
すごく面白い研究だと感心しますが、ガラガラヘビを相手に実験する光景を想像すると簡単に真似できないなと思います。

2010年3月15日月曜日

PMRG雑感

麻酔科痛みを語る会、別名PMRG (Pain Mechanism Research Group)の集まりが週末にありました。プログラムはこのブログでもお伝えしたとおりでしたが、実際に発表された内容も充実したものでクローズドにしておくのはもったいないというのが率直な印象です。
初日には術後痛モデルを使った研究が3題発表されました。これからの展開が楽しみなもの、かなりな完成度に到達しているものそれぞれでした。フロアからはモデルとしてのPlantar incisionがリアルな術後痛モデルになりきっていないのでは、というコメントが出ました。ある意味当然の疑問で、いろいろと改良したモデルがあることも事実ですし、我々も何らかの形でこの問題に取り組んでみたいと思っています。清水先生の特別講演はすばらしいの一言でした。懇親会ですごく基本的なことを質問してしまったのですが、真っ正面から議論していただいて本当にうれしかったです。
2日目はヒトを対象とした研究が幾つか報告されました。初日の一題もそうでしたが、ヒトでの報告は迫力があっていつも聞き入ってしまいます。やはりどうしても「動物は脊髄〜末梢神経」「ヒトは中枢」という棲み分けになる傾向があり、材料もトピックスも違うために、なんとなく議論が進みにくい感じでした。動物でも、もっと中枢にfocusした研究が出てきても良い時期だと思います。

2010年3月11日木曜日

第3回麻酔科痛みのメカニズムを語る会

今週末は「第3回麻酔科痛みのメカニズムを語る会」があります。
わずか3回で参加者も演題数もずいぶん増えました。めでたいことです。
Closedな会ですが、演題を眺めていて、どう考えても面白そうな2日間になりそうな気がしますので、プログラムだけでもご紹介したいと思います。

3月13日(土)

開会の辞                             13:00~13:10

新潟大学麻酔科 河野達郎

一般演題 (討論含め25分)                  13:10~15:00

座長 新潟大学麻酔科 河野達郎

1. 「マウス脊髄後角抑制性介在神経に発現するNMDA受容体」

九州大学麻酔科 塩川浩輝

2. 「神経因性疼痛モデルマウスの脊髄におけるGABA受容体介在性tonic電流の変化」

大阪大学麻酔科 井浦晃

3. 「Periganglinoic inflammation (PGI) :座骨神経痛の新たな動物モデル」

京都府立医科大学麻酔科 天谷文昌

4. 「錯視を用いた疼痛に対する注意の定量化」

東京大学麻酔科 住谷昌彦

休憩                                15:00~15:20

一般演題                        15:20~17:00

座長 兵庫医科大学第二解剖 福岡哲男

5. 「SNLモデルラットに対するクモ膜下腔Semaphorin3A投与の鎮痛効果」

横浜市立大学麻酔科 林路子

6. 「ラット術後痛モデルに対する塩酸トラマドールの鎮痛作用」

群馬大学麻酔科 木村雅文

7. 「術後痛モデルにおけるp38MAPKの一次知覚神経における発現」

京都府立医科大学麻酔科 水越圭子

8. 「マウス術後痛モデルおよび炎症性疼痛モデルにおけるロイコトリエンB4の役割」

東京大学麻酔科 浅原美保

休憩                              17:00~17:30

特別講演                     17:30~18:30

座長 東京大学麻酔科 伊藤伸子

「脂質研究ープロスタグランディンから肺サーファクタントまで」

東京大学大学院医学系研究科 分子細胞生物学専攻 生化学分子生物学教授 清水孝雄

3月14日(日)

一般演題                        9:00~10:20

座長 京都府立医科大学麻酔科 天谷文昌

9. 「一次知覚ニューロンにおけるKv1.1-Kv4.3 mRNAの発現」

兵庫医科大学第二解剖 福岡哲男

10. 「末梢神経ー脊髄神経系におけるPLCβの発現」

信州大学麻酔科 川股知之、望月憲招、井出進、田中秀典、川真田樹人

11. 「Gliotransmitter D-serineが脊髄後角細胞に及ぼす効果」

新潟大学麻酔科 川崎康彦

休憩                               10:20~10:40

一般演題                      10:40~12:00

座長 信州大学麻酔科 川股知之

12. 「統合失調症の痛覚研究を通じての慢性疼痛の理解」

大阪大学麻酔科 中江文

13. 「厚生労働省の慢性の痛みに対する検討会の経過報告」

大阪大学麻酔科 柴田政彦

14. 「脳機能画像を用いた痛覚認知機構解析-筋由来の痛みと皮膚由来の痛みの比較・検討」

大阪大学麻酔科 植松弘進

2010年2月25日木曜日

Opioids activate brain analgesic circuits through cytochrome P450/epoxygenase signaling.

Nat Neurosci. 2010 Mar;13(3):284-6. Epub 2010 Feb 7.
Mu-オピオイド受容体が鎮痛に働く機序として、中心灰白質(PAG)ニューロンが賦活化されること、これはPAGニューロンに対する抑制性GABA入力が抑制されることで生じること、GABA入力が抑制されるメカニズムには電位依存性カリウムチャネルが関与していること、Mu-オピオイド受容体がカリウムチャネルを抑制するにはホスホリパーゼA2の活性化を介した細胞内アラキドン酸増加が必要であること(ref)が知られています。アラキドン酸カスケードの中でもシクロオキシゲナーゼ(COX)の下流であるプロスタグランディンはオピオイド作用に関与せず、COX阻害剤はプロスタグランディン以外の(そしてオピオイドの作用に関連するであろう)カスケードを相対的に活性化させるため、COX阻害剤とオピオイドには相乗効果が生まれるのだと考えられています。
それでは、オピオイドの作用に関連するアラキドン酸カスケードはいったい何か?ということですが、これまで12-リポキシゲナーゼ(LOX)の関与が主張されてきました。
今回は12-LOXとは違う、新しいカスケードが関与しているという報告です。アラキドン酸カスケードにはCOX/LOX以外にP450を介したエポキシゲナーゼ系というものが存在するそうです。著者らはP450酵素をニューロンでだけノックアウトしたマウスを使ってオピオイドの効果を判定しました。
図1でP450が消失していることを示しています。図2ではモルヒネ投与による急性の鎮痛効果がKOマウスでは減弱していることを行動解析で示しています。図3では薬物によるP450/エポキシゲナーゼのブロックでも同様にモルヒネの作用が減弱することが示されています。
アラキドン酸カスケードは調べれば調べるほどどんどん枝分かれしていって、どの枝がどれくらい重要かさっぱりわからなくなるような気がするのですが、P450も実際には多様な酵素群の集合体で、合成される化合物も多彩です(ref)。今回の論文で使われたトランスジェニックマウスは、すべてのP450酵素群が働くなるようにしてあるようです。今後もっと詳細な解析がなされれば、12-LOX系との関連や整合性も明らかになるのかもしれません。

2010年2月15日月曜日

痛みと鎮痛の基礎知識 上・下(知りたい!サイエンス)技術評論社

滋賀医大の小山先生がついに本を書かれました。小山先生のホームページはこのブログの読者ならば一度はお世話になったことがあるのではないでしょうか。実は僕もその一人で、この本はそこに貼ってあるのを見つけて購入しました。今アマゾンで注文したら24時間で届きますよ。
痛覚および疼痛治療について丁寧に記述されています。上巻は基礎研究、下巻は臨床と分野を区別していますが、両者には一貫性があります。僕は通読しましたが、おかげさまで痛覚に関する考え方を整理しなおすことができました。一番最初の章に痛覚という概念を理解する歴史的な過程が書かれており、個人的にはもっとも読み応えがありました。是非ご一読ください。

2010年2月12日金曜日

ERK1/2 Mitogen-Activated Protein Kinase Phosphorylates Sodium Channel Nav1.7 and Alters Its Gating Properties.

J Neurosci. 2010 Feb 3;30(5):1637-47.
Nav1.7
が一次知覚神経に存在し痛覚伝達にはたらいていること、鎮痛薬のターゲットになりうることはこのブログでも何度か紹介した通りです。今回の論文はpERKNav1.7をリン酸化することでその機能を活性化させているということを報告しています。似たようなストーリーはNav1.8p38でも報告されています。

1ではtotal ERKNav1.7DRGsmall sized neuronに存在することが示されていて両者が細胞内でinteractionできることを示唆しています。

2ではNGF/GDNFを培養DRGに投与してERKのリン酸化をみています。pERKは両者で増加しています。

3ではERKリン酸化阻害剤U0124DRGニューロン-NGFの系で機能することを示しています。

4ではU0124DRGニューロンの活動電位を抑制させることをしめしています。

5ではHEK細胞に発現させたNav1.7の電流がU0124によって抑制されることが示されます。

6から図8Nav1.7リン酸化部位の検索です。一連の解析から、Nav1.7の第一ループにリン酸化部位があること、同定された4箇所のリン酸化部位のなかでNav1.7の機能変化に関与している部位は3箇所あることなどなどが明らかにされています。

DRGにおけるERKのリン酸化というと、SNLモデルのL5がもっとも強くて持続的な発現が認められるケースでしょうか。TNFで誘導されるという報告もありますし、activitiy dependentにERKが誘導されるという報告もあります。いずれにせよ、強い刺激によって一過性にpERKが発現してNav1.7をリン酸化する、と考えるとその役割というか重要性がなんとなく理解できるような気もします。

2010年1月18日月曜日

Genetic variation in SCN10A influences cardiac conduction

知覚神経にだけ発現していると思われていたNav1.8ですが、実は心筋細胞にも発現があって、しかも何らかの機能を果たしているようだ、という論文。同じ主旨の論文があと2報同時掲載されます(ref ref)。
イギリス在住のインド系アジア人の心電図異常とSNP解析の結果からNav1.8をコードしているSCN10AのSNPがPR異常と深い関係にある、すなわち心房から心室への伝導に異常が認められることがわかりました。ちなみに、他の2報はアジア人のサンプルではなくて、コーカソイドからのデーターのようですし、人種間の違いはあまりない?のではないかと思われます。
Nav1.8ノックアウトマウスでは有意にPR間隔が短縮しているし、このSNPがあればヒトの不整脈発症リスクが上昇するらしいです。
PCRでは心臓由来のサンプルでNav1.8mRNAが増幅されることがマウス、ヒトで確認されました。
これまではNav1.8は末梢神経しか発現しないというのが定説だったのですが・・・。選択的阻害剤には催不整脈作用はないのでしょうか??臨床で阻害剤を使うのも微妙なことになるのかもしれません。
これで一次知覚神経以外の組織において発現が確認されていないナトリウムチャネルはNav1.9だけになりました。
私が実験した限りNav1.9ノックアウトマウスは痛覚過敏の具合が違うだけで、あとは普通のマウスでした。Nav1.8阻害剤が頓挫してNav1.9に注目が集まるのか?あるいはNav1.9も他の臓器で発現している、というような報告がでてくるでしょうか??