2010年3月25日木曜日

Opioid-Induced Long-Term Potentiation in the Spinal Cord Is a Presynaptic Event

J. Neurosci. 2010;30 4460-4466
レミフェンタニルの登場でオピオイドによる痛覚過敏(opioid-induced hyperalgesia: OIH)が注目されています。OIHのメカニズムを脊髄後角において調べた論文です。
オピオイドの鎮痛メカニズムが脊髄後角の痛覚伝達を抑制することにあって、これにはpresynapticな作用が主として関与しています。昨年、OIHと類似の状況で脊髄にLTPが生じ、これはpostsynaptic eventであるという論文が出ましたが、今回の論文はそうではなくて、presynapticなイベントであることが示されています。
まずはじめにラット脊髄にDAMGO(MORのアゴニスト)を投与して、これをwashoutするとC-fiberを刺激した後に生じる脊髄ニューロンの電気的興奮が増大する現象を示しています。Paired pulse ratioが増大していることからこの現象はPresynaticではないのかと考えているようです(図1)。注目するべきことに、約半数の後角ニューロンはこのようなLTPをひきおこさないようです。
図2ではGタンパク阻害剤のGDP-b-Sを後角ニューロンに投与してもLTPが抑制されないことが示されています。このdataから、シナプス後側の役割が限定的であると考えているようです。
さらに、一次知覚神経の中でTRPV1陽性ニューロンだけを選択的にablationするとLTPが消失しそれだけではなくてDAMGOによるEPSCの抑制効果が遷延する現象が観察されています(図5)。
これらの現象にはpresynapticな細胞内カルシウム濃度の上昇とNMDA受容体の活性化が必要であることが図6と図7で示されています。
TRPV1を除去するとDAMGOによるmEPSCの頻度が長い間抑制されるのがとても面白いと思います。一体どのようなメカニズムが関与するのでしょうか。

2010年3月19日金曜日

Molecular basis of infrared detection by snakes

Nature, AOP, 2010 Mar14
ヘビはピットと呼ばれる器官によって獲物や外敵の体温を関知して攻撃するそうです。その感度は1m離れた対象物の体温を感じることができるくらい鋭敏で、視覚とあわせることでかなり正確に対象物を把握できるらしいです。このピット器官が熱を感受するための分子センサーがTRPA1だという報告です。
Pitを持っているガラガラヘビのDRGと三叉神経節(TG)の遺伝子発現プロファイルを比較したところ、TRPA1はDRGよりもTGにおいてはるかに高い発現を示しました。同じ比較をピット器官を持たないヘビで行うとTRPA1の発現はDRGとTGで変わりがないそうです(図1-2)。 ピット器官の神経支配はTG由来なのでピット器官における熱受容とTRPA1との関係が注目されたわけです。
それで、ヘビTRPA1をHEKに導入してみたところ、室温では興奮しないが温度を上昇させると急速に興奮することがわかりました。閾値はヘビにより違いますがガラガラヘビでは28度前後に閾値があります(図3)。
実際にTGニューロンを培養してカルシウムイメージングしてみると、熱刺激で興奮するニューロンが多数であり、この反応はTRP阻害剤のRhutenium redによりブロックされます(図5)。
ほ乳類のTRPA1はワサビや麻酔薬などの化学物質に感受性がある代わりに熱刺激への感受性は失われています。動物の中ではヘビとコウモリが近赤外線のモニタリングができるらしいですが、これらの種ではすべてTRPA1に熱感受性があるのかどうかはわかりません。ピット器官はヘビが生存するには欠かせない器官だそうで、ほ乳類が有害刺激を避けるためにTRPA1を利用していることとは別の意味でクリティカルな役割を担っているわけです。
すごく面白い研究だと感心しますが、ガラガラヘビを相手に実験する光景を想像すると簡単に真似できないなと思います。

2010年3月15日月曜日

PMRG雑感

麻酔科痛みを語る会、別名PMRG (Pain Mechanism Research Group)の集まりが週末にありました。プログラムはこのブログでもお伝えしたとおりでしたが、実際に発表された内容も充実したものでクローズドにしておくのはもったいないというのが率直な印象です。
初日には術後痛モデルを使った研究が3題発表されました。これからの展開が楽しみなもの、かなりな完成度に到達しているものそれぞれでした。フロアからはモデルとしてのPlantar incisionがリアルな術後痛モデルになりきっていないのでは、というコメントが出ました。ある意味当然の疑問で、いろいろと改良したモデルがあることも事実ですし、我々も何らかの形でこの問題に取り組んでみたいと思っています。清水先生の特別講演はすばらしいの一言でした。懇親会ですごく基本的なことを質問してしまったのですが、真っ正面から議論していただいて本当にうれしかったです。
2日目はヒトを対象とした研究が幾つか報告されました。初日の一題もそうでしたが、ヒトでの報告は迫力があっていつも聞き入ってしまいます。やはりどうしても「動物は脊髄〜末梢神経」「ヒトは中枢」という棲み分けになる傾向があり、材料もトピックスも違うために、なんとなく議論が進みにくい感じでした。動物でも、もっと中枢にfocusした研究が出てきても良い時期だと思います。

2010年3月11日木曜日

第3回麻酔科痛みのメカニズムを語る会

今週末は「第3回麻酔科痛みのメカニズムを語る会」があります。
わずか3回で参加者も演題数もずいぶん増えました。めでたいことです。
Closedな会ですが、演題を眺めていて、どう考えても面白そうな2日間になりそうな気がしますので、プログラムだけでもご紹介したいと思います。

3月13日(土)

開会の辞                             13:00~13:10

新潟大学麻酔科 河野達郎

一般演題 (討論含め25分)                  13:10~15:00

座長 新潟大学麻酔科 河野達郎

1. 「マウス脊髄後角抑制性介在神経に発現するNMDA受容体」

九州大学麻酔科 塩川浩輝

2. 「神経因性疼痛モデルマウスの脊髄におけるGABA受容体介在性tonic電流の変化」

大阪大学麻酔科 井浦晃

3. 「Periganglinoic inflammation (PGI) :座骨神経痛の新たな動物モデル」

京都府立医科大学麻酔科 天谷文昌

4. 「錯視を用いた疼痛に対する注意の定量化」

東京大学麻酔科 住谷昌彦

休憩                                15:00~15:20

一般演題                        15:20~17:00

座長 兵庫医科大学第二解剖 福岡哲男

5. 「SNLモデルラットに対するクモ膜下腔Semaphorin3A投与の鎮痛効果」

横浜市立大学麻酔科 林路子

6. 「ラット術後痛モデルに対する塩酸トラマドールの鎮痛作用」

群馬大学麻酔科 木村雅文

7. 「術後痛モデルにおけるp38MAPKの一次知覚神経における発現」

京都府立医科大学麻酔科 水越圭子

8. 「マウス術後痛モデルおよび炎症性疼痛モデルにおけるロイコトリエンB4の役割」

東京大学麻酔科 浅原美保

休憩                              17:00~17:30

特別講演                     17:30~18:30

座長 東京大学麻酔科 伊藤伸子

「脂質研究ープロスタグランディンから肺サーファクタントまで」

東京大学大学院医学系研究科 分子細胞生物学専攻 生化学分子生物学教授 清水孝雄

3月14日(日)

一般演題                        9:00~10:20

座長 京都府立医科大学麻酔科 天谷文昌

9. 「一次知覚ニューロンにおけるKv1.1-Kv4.3 mRNAの発現」

兵庫医科大学第二解剖 福岡哲男

10. 「末梢神経ー脊髄神経系におけるPLCβの発現」

信州大学麻酔科 川股知之、望月憲招、井出進、田中秀典、川真田樹人

11. 「Gliotransmitter D-serineが脊髄後角細胞に及ぼす効果」

新潟大学麻酔科 川崎康彦

休憩                               10:20~10:40

一般演題                      10:40~12:00

座長 信州大学麻酔科 川股知之

12. 「統合失調症の痛覚研究を通じての慢性疼痛の理解」

大阪大学麻酔科 中江文

13. 「厚生労働省の慢性の痛みに対する検討会の経過報告」

大阪大学麻酔科 柴田政彦

14. 「脳機能画像を用いた痛覚認知機構解析-筋由来の痛みと皮膚由来の痛みの比較・検討」

大阪大学麻酔科 植松弘進